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ただ行けというだけで若者は投票に行くのか

世代別投票率グラフ

2015年5月20日公開(8月7日一部追加修正)

 

大阪都構想の住民投票の結果はかなり接戦で、ちょっとの差で結果が変わったようです。
特に70歳以上の年代を除いて結果が逆だったことから、問題として提起されたのが若い人の投票率の問題です。

老害などという論調も一部ありますが、一部の権力者に対してを除けば、そういう物言いはいかがなものかと考えます。
昨年2月の都知事選の時に、雪道を一生懸命に歩く腰の曲がったお年寄りや車いすで投票所に来る方を見かけました。そうまでして投票に行く高齢者を否定することはできませんし、親や育ててくれた世代に尊敬や感謝の気持ちは持ちたいものです。
結果に不満がある方は、高齢者の共感を得られなかった理由を考えるとともに、投票に行かなかった一部の若い人が悪いのだと考えるしか無いと思います。

なぜ若い人は投票に行かないのか、なぜ高齢者は行くのか、について考えてみました。

 

自分の1票で結果が変わることはまずありません

自分が入れなければ同数であり、1票差で決まる状況だけが、自分が入れた1票で結果が変わったということになるのですから、通常そういう確率は限りなくゼロに近いはずです。

(と書いていたら、まさに大阪住民投票と同じ日にあった足立区議会議員選挙では、1票差で当落がわかれたそうです。きわどい。  足立区議会議員選挙結果

そのうえ、投票に至るまでには様々なコストが存在します。
投票所が遠い人や交通費がかかる人もいるでしょうし、レジャーに行くための貴重な時間も消費します。
誰に投票するか決めるために、新聞を読んだりニュースを見たり人に聞いたりする時間や手間もコストになります。
若い人ほど出かける用事も多いでしょう。取られる時間や手間に対するコストも、高齢者に比べるとだいぶ高くなると言えると思います。

全員がただひたすら合理的に考え、選挙結果を変えたいだけの動機だったら、投票に行く人はあまりいなくなるはずです。
投票に行く人にはそれ以外の動機があるはずです。
たとえば、自分の信念を叶えてくれそうな政治家や政策に共感し支持を表明したい。民主主義を維持するために投票に行くのが正しいという規範。自分の行動の一貫性を保ちたい。人に良く見られたい。祭やムーブメントに乗りたいなど。
様々な思いがプラスされた所に、「自分の1票では変わらない」のに「コストを払って」投票に行くという行動をとる動機が生まれるのだと思います。

 

高齢者は社会規範がある?

今回の住民投票で取り上げられた70歳以上の人。なぜお年寄りが投票に行くかを想像すると、社会規範が根底にあるからではないでしょうか。

現在70歳の方が生まれたのは昭和20年。終戦の年です。
終戦までは軍国主義でした。終戦と同時に、民主主義が正しいという思想に転換しました。
国のために個人は犠牲にという思想から自由平等な民主主義へ。劇的な思想転換ですが、短い期間で思想が一変したのです。
この思想転換をまたいだ経験を、70代以上の多くの方が持ちます。生まれた時から民主主義が当たり前だった世代とは違った感覚を持っている方も多そうです。
終戦後に育った方も、親は間違いなくお国のためにというような教育の中で育っています。
そして、「世間様に迷惑をかけない」「ご近所に顔向けが出来ない」などの強烈なムラ社会の中で生きてきました。

(みんなが行ってるのに)行かないのは悪いこと。悪い人になりたくないから投票に行くし、世間様と同じように考えて行動するのが正しい。
そういう考えが薄まってきても、昔からずっとそうしているから自分の行動の一貫性として今もあたりまえに投票に行き続ける。社会規範として投票に行くのが当然であり義務だと思っているのです。

 

若い人は多様性を認め合理的に考える?

一方、若い人にはそうした社会規範がありません。
また、ムラ社会に生きてきた高齢者に比べると多様性を認めやすく、みんなと同じ思想や行動を取らないことに対する抵抗もかなり低いことでしょう。
逆に、共感を得るための行動や、人々の思想をまとめていく方向の活動は苦手なのではないでしょうか。
人数が多く、すぐまとまって同じ方向に行動する高齢者に対し、まとまらない自分たちの世代に政治的無力感を感じることは多いでしょう。
良いとか悪いということではなく、違いをきちんと認識した上で対策を考えないといけないのではないかということです。

 

歳を取れば選挙に行くようになる?

グラフ1を根拠に、「若いうちは政治に興味が無いから投票に行かないが、歳をとって政治に興味が出れば行くようになる」という分析している方が一部にいらっしゃいます。

年代別投票率
グラフ1(総務省公開資料)

 

しかし、このグラフのデータを元に、世代別の投票率のグラフを作るとグラフ2になります。
よく見ると、若い時の投票率を基準にして、年齢が進んでもせいぜい10%しか変動がありません。
これらから、前の世代の投票率にはさほど変化がありませんが、最近選挙デビューの若者の投票率が急激に下がっていることで、それに連れて全体の投票率も下がってきたことがわかります。

最近の選挙で、一見すると中年以降の人の投票率が上がっているように見えるのは、この現象が原因です。
「見た目」の投票率による「錯覚」であると言えます。

世代別投票率グラフ
グラフ2(総務省公開のデータより作成)

 

また、なぜ選挙に行かないかというアンケートでも、政治に興味が無いという理由は、実はそれほど多くありません。

選挙に行かない理由
東京都選挙管理委員会配布の資料より

 

つまり、年代で投票率が変動するのではなく、やはり世代に固有の投票率があることがわかります。
若いうちから選挙に行く人はおそらく歳をとっても行き、若いうちから行かない人はずっと行かない傾向があるのではないかと想像できます。
やはり、世代ごとの社会規範が影響しているのではないかと考えられるのです。

 

動機が足りない

最近の若い人は、社会規範に乏しく、投票に行く動機が小さいため、投票に伴うコストを乗り越える力が高齢者と比較してかなり必要なのではないかとなります。

ただ「投票に行け」というだけでは、どうにも説得力が足りないような気がします。
かといって、選挙制度を大きく変更するのは、現状で当選している議員が決めるということを考えると、著しく困難なことです。
つきなみですが、まずは投票方法や情報に対するアクセスを改善することや、政党が若者に興味がある政策や候補者を提示することで、投票までの政治的なコストを下げる努力から始めるしかないでしょう。

 

選挙掲示板

 

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