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受動喫煙対策を進めるにはまず賛成のしかたを考えよう

受動喫煙

大阪市と大阪府が受動喫煙防止条例制定へ検討をはじめました。
吉村大阪市長は、科学的根拠に基づいて検討されていた「以前の厚労省案」をベースとすると発言しており、国際的な基準に沿ったものになりそうです。
また、加熱式タバコについても踏み込んでいます。注目です。

松井一郎知事は、受動喫煙による健康への影響が分かっていない加熱式についても、燃焼式と同じように規制する考えを示した。

大阪府の受動喫煙対策条例「加熱式たばこも含む」

受動喫煙防止の条例制定検討「吉村大阪市長からきつく詰められた」

松井知事受動喫煙防止の条例制定検討

国でも東京都でも、受動喫煙対策については法整備が検討されていますが、なかなか成立しません。
賛成の人が多い一方で、反対意見も根強く、なかなか前に進まない構図は、憲法改正や都構想などの議論と重なる部分もあります。
感情的なやりとりになることも多く、前向きな議論に進めるのは容易ではありません。

わたしは、受動喫煙対策については、反対意見に対応するよりも先に、賛成の人に賛成のしかたを考えてもらう方向性が必要だと感じています。

受動喫煙対策は規制

受動喫煙対策は規制であり、人の行動を制限することです。
今まで自由な場所で自由に吸っていた喫煙者に対し、「ここで吸うな」ということを強要することになります。
ですので、受動喫煙は良くないなと感じる方の中にも、社会の寛容さを保ちたいと考え、法律で規制することに対して抵抗がある方もたくさんいます。

吸う人が2割しかいないのに。

たばこの煙の臭いが嫌。

というような、「吸う人の権利」vs「吸わない人の権利」という構図に持っていく言い方になってしまうと、強い抵抗につながります。

また、感情的な意見のぶつかり合いになることで、良識のある最も一般的な人々は、その議論から離れようとします。
強い意見を持っている方は、実は少数派であり、バランスを取ろうとする多くの「浮動票」の獲得には冷静さが必要です。

大切なのは健康被害を食い止めること

受動喫煙対策が必要な理由は、健康被害があるからです。
健康被害があるというエビデンスについては、津川友介先生 : UCLA助教授(医療政策学者、医師) のブログをお読みください。

受動喫煙に関するエビデンスのまとめ
科学者はどのように「不完全なエビデンス」を国民に伝えるべきか?

日本国内で年間15000人が死亡しています。
中には「そんなに死ぬはずがない」と感じる方もいるようです。
受動喫煙の被害が目に見えにくく、具体的な話になりにくいこともあり、直感的な理解は難しい部分があります。

交通事故では年間約4000人が死亡します。
たとえば、知人の方が交通事故で亡くなったというのは、原因がはっきりしていますから具体的な話です。
しかし、受動喫煙による健康被害で亡くなった方は、「知人が受動喫煙で亡くなった」という具体的な話にはなりません。
医師にも、ある人の癌が能動喫煙によるものなのか、受動喫煙によるものなのか、タバコとは全く関係のない原因によるものなのか、などの見分けはつきません。
受動喫煙を原因として、様々な病気で亡くなった方が、理論的に一定の割合でいるのですが、それが誰なのかは、はっきりしないのです。

「もし受動喫煙対策が完全であったなら15000人は死なないですんだ」ということを理解するためには、医学的知識や統計学的な知識が必要で、抽象的でイメージしにくいのが問題なのです。

「受動喫煙は健康被害をもたらす」ということをスッキリ受け入れられない方には、賛同を求めてもなかなか難しいでしょう。
まずは、健康被害があるというエビデンスを受け入れられる方に、賛成のしかたを考えてもらうことが最初で、「受動喫煙対策は健康被害を食い止めるためのもので、権利の話ではない」ということを理解してもらい、人権の話から離れてもらう必要があります。

受動喫煙対策は、上下水道や公害対策などと同じ社会的インフラの整備だと理解してもらうことです。

法規制は必要である

法律はもともと、慣習や社会規範、道徳で内側から支えられているものが、その延長上に社会的な必要性があって成立するものがほとんどです。
一部の方からは、受動喫煙対策はマナーや道徳の問題で、法規制は必要ないという意見もありますが、どうでしょうか。

経済学で、喫煙は公害と同様に「外部不経済」の例としてしばしば取り上げられます。
外部不経済とは、平たく言えば、社会に損失を与えていたとしても、そのコストを負担しなくても良い状況のことです。

もし工場が川に流していた廃液の処理コストを負担することになると、その企業の内部だけで考えると経済的に損します。基本的に進んで対策はしません。
しかし、廃液によって魚が取れなくなったり、病気になったりする人がいるならば、社会的には経済的な損失が発生しますので、社会全体からみると対策が必要になります。
企業が、自分たちが垂れ流している廃液が大きな被害を生んでいるという理解や、社会からのなんらかのプレッシャーがなければ、企業にはコストを負担する動機が生まれないのです。

受動喫煙も構図が似ています。好きな場所で好きなように吸う自由を手放すためには、なんらかのインセンティブやプレッシャーが必要です。
「受動喫煙が問題になっている」ことは認知している人が多い中、マナーだけで成立するなら、すでに問題になっていないはずではないでしょうか。

分煙は有効ではない

分煙は、受動喫煙対策として有効ではないことがわかっています。
分煙を受動喫煙対策として機能させるためには、竜巻並みの吸引力のある空気清浄機が必要だそうです。

受動喫煙対策が、健康被害を食い止めるために必要なのであるということを考えると、完全な対策が必要であり、中途半端な対策では意味を成しません。

法整備に持っていくための手段

しかしながら、政治の立場で考えると、実際に法整備を進める上でのプロセスとしては意見が分かれるようです。

反対意見に配慮して一歩一歩段階的に進めることを目指すやり方と、正論を貫き一気に完全に機能する対策まで持っていこうとするやり方。

塩崎恭久前厚労大臣は、エビデンスに基づいた「元の厚労省案」にこだわり、譲りませんでした。
医療の専門家などに絶賛されましたが、法案が流れたことで、一部の政治家には、調整能力が足りないとして批判されました。

神奈川県知事だった松沢成文参議院議員は、神奈川で自身が制定した受動喫煙防止条例について、「機能しなかった。最初から罰則がきちんと適用されるようにすべきだったし、面積基準ももっと厳しくするべきだった。」と発言しています。

分煙についても、根強い反対意見に対応する手段として、完全に捨て去ることはできないのでしょう。
わたしは、分煙には否定的です。受動喫煙対策は最初から完全にしないといけないという意見ですが、なかなか難しいところです。

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