アンジェリーナ・ジョリーの決断

アンジェリーナ・ジョリー ポスター/ブラックトップ/ APO-2522

日本医療政策研究会の朝食会「アンジェリーナ•ジョリーさんはなぜ手術を受けたのか」に参加しました。

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女優のアンジェリーナ・ジョリーは、乳がん予防のため両乳房を切除しました。
その後、ジョリーは自らこのことを「New York Times」紙に投稿し、話題になります。

ジョリーの母は、卵巣がんと10年間闘った結果6年前に死去しています。ジョリーも特定の遺伝子を引き継いでおり、乳がんになる可能性は87%、卵巣がんになる可能性は50%と知ると、予防のため両乳房を切断するという大きな決断を下しました。

ジョリーを担当したクリスティ・ファンク医師は、「世界で一番美しい人が、女性の象徴である体の部分を切除したなどということを世間に明かすなんて、信じられないと思う人もいるでしょう。しかし慈善精神にあふれる彼女は、こんな秘密を抱えたまま、自分らしく生きることはできないと思っていたのです。彼女の勇気ある行動は、乳がんを引き起こす特定の遺伝子についての意識を高める上で大きな貢献をしたのです。」と話しました。

 

ジョリーの選択は何が新しいのか

予防医学が重要視されつつありますが、ジョリーがした選択は、予防よりさらに進んだものです。病気に対する先制攻撃という意味合いの、先制医療と呼ばれることもあるようです。

将来起きるかどうかはっきりしないことに対して、予防的に手術まで行うのは、従来の予防とは考え方が違います。
従来の予防で行うのは、リスクが高い場合に検査の頻度を高くしたり、生活習慣を改めてリスクを下げたりすることです。
そして、手術は必ずがんが実際に発症してから行います。
日本では、彼女のような選択を受け入れられる病院を探すのは、今のところそれほど簡単ではないと思います。

 

遺伝子診断は有用なのか

人は自分のことを一番知りたいのではないでしょうか。
自分の将来に何が起こるのかを、いつ病気になり、いつ命が尽きるのかを知りたいのです。
しかし、それを完全に知ることができるようになる日は来ないと思います。
健康は、遺伝のほかに環境と時間によって影響を受けるからです。生き方によって、病気や寿命は変わります。

「ジョリーは特定の遺伝子を引き継いでおり、乳がんになる可能性は87%」とありますが、実は87%は最高の確率を示した論文に寄ります。最低の確率を示したものだと50%だそうです。当然のことですが、研究対象によってだいぶばらつきがあります。
確率は現時点でのそうした研究データを元にしたもので、現時点での将来に対する予想ですし、不確実なものです。

くりかえしになりますが、遺伝子診断で知ることができるのは「病気になる可能性」です。「50歳で病気になる」というような確実な情報ではありません。
遺伝子の情報は参考にはなりますが、最終的には自分自身で判断して、どう取り扱うか決めることになります。

たとえば、治らない病気の可能性を調べるべきかどうかも、検査に意味があるかどうかは人によって違ってくるでしょう。
リスクを知った上で人生を考えるのか、知らないという選択をするのかは、やはり個人的な問題となるはずです。

結果をどう扱うのかまで考えた上で判断すべきで、有用なのか不要なのかは人それぞれであるという理解が必要です。

 

遺伝子解析の進歩と情報管理の課題

1980年代半ばに「ヒトゲノム計画」がアメリカで立案され、なんと30億ドルの予算が組まれました。
そして2003年、とうとう完成版が公開されました。人の遺伝子の解析はすでに終わっています。

しかし、遺伝子情報の解釈、つまり遺伝子の情報が何を意味するのかについてはまだ研究段階です。
遺伝子情報のそれぞれが何を引き起こしているかは、まだまだわかっていないことが多いのです。

過去には何千億円もかけた遺伝子解析も、現在では、個人の遺伝子解析が10万円の費用、15分で行えます。
しかし、その記録のほとんどは、意味がわからない記号の並びに過ぎません。
研究が進めば、この情報から個人に将来起こることがたくさんわかるようになるのでしょう。

遺伝子は一生変わらず病気を予見する可能性があり、一部は近親者に受け継がれるものです。
究極の個人情報と言えます。

口をつけた空き缶や落ちた毛髪などから、勝手に他人の遺伝子を解析することも、技術的には十分可能です。
将来、個人の遺伝子情報が漏洩したり、売買される可能性があるのかもしれません。
また、遺伝子情報を元に差別が起こることも考えられます。

アメリカでは遺伝子検査で病気のリスクが高いとされた場合に差別されることがないよう、「遺伝子情報差別禁止法」によって守られています。
日本でも、情報管理や差別に対する法整備などの課題があります。

 

遺伝カウンセラー

判断に専門的知識が必要なことは明らかで、情報の精度を確認し、決断することは素人には難しいでしょう。
デマや迷信、不確実な情報に惑わされず、科学的根拠を元にした医学的判断を「正しく知る」ことができる体制がぜひ必要です。

「判断を助ける」ためのカウンセラーの存在は不可欠です。
日本では遺伝カウンセラーは現在39名いますが、資格をとっても現状では就職先がほとんどなく、給料も低いことから、優秀な人材が集まらない状況になっているようです。
医療政策の観点で対策が必要です。

 

医療政策にどう反映させるか

日本の現状では、保険適用にならないため、遺伝子検査の費用は20万〜30万円。切除して乳房再建まで約200万円。カウンセリング費用などは別途になります。
欧米諸国では保険適用の国もあります。アメリカでは保険で手術まで行えるようです。
日本でも、これらを保険適用にするべきなのかどうかは、財源や将来の医療制度を考えた上で、議論の余地があります。

費用の問題は別にしても、今後はこのような医療が行われる機会が増えることは確実です。
「正しく知る」ことや「判断を助ける」ための体制づくりは、市場に委ねるだけでは、遺伝カウンセラーの現状のようにうまくいかなくなる可能性があります。

様々な立場から議論を重ねて、政策の問題として整備していく必要があるのではないでしょうか。

 

まとめ

従来の「病気だから治療する」というような、個人的な決断の余地がほとんどない医療と比べて、遺伝子情報に基づいた医療は、個人的な価値観による決断の幅がとても大きくなります。

「どうして手術したの?」とか「なぜしないの?」というような個人の価値観による話や、「誰々がしたからわたしも」のような決め方ではいけません。
人それぞれの決断を尊重した上で、わたしはこうするという判断を、自らできるようになるといいですね。

これからは、医師からの情報だけでなく、個人が自ら知識を得て、多様な選択肢の中から自分らしい生き方を選ぶ時代になります。そうした選択に対して価値観の多様性を認めることができる社会になっていくべきだと思います。

アンジェリーナ・ジョリーの決断と公表は、こうした未来の医療に対する問題提起となりました。

 

参考:遺伝性のがんの可能性を知るポイント

90%のがんは「遺伝」ではありませんが、以下の要素がある場合は、がんを発症しやすい体質かもしれません。

①血縁者に50歳前後でより若い年齢でガンを発症した人がいる場合
②血縁者に同じ種類のガンを経験した人が複数いる場合
③血縁者に同じグループに属するいくつかの種類のガンを経験した人が複数いる場合
④同じ人が同時あるいは別の時期に複数のガンを経験している場合
⑤乳房や目など2つある臓器の両方にガンがみられた場合
⑥ひとつの臓器にガンが多発している場合
⑦通常あまりみられない頻度の低いがガンが見られた場合

 

肥満や肌の老化の遺伝子検査キットが販売されています。
結果はおおよそ想像が付きますが、今度やってみます。

アンジェリーナ・ジョリーの上半身ヌードがばっちりとの映画。
手術前の胸が見たい人はどうぞ。

 

参考文献:遺伝子検査と病気の疑問


最初に読むのにとてもわかりやすい本でした。遺伝子検査に興味がある方にはおすすめです。

 

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